今回は、転調の話。俗にいう”帰り転調”について話していきたいと思います。
転調から戻る:”帰り転調”
転調というのは、楽曲にインパクトを与えます。特に、サビにおける転調は楽曲として盛り上がりやメリハリが生じるため、ポップスでは重宝されているといえます。
多くの場合は、その素晴らしいサビへの”行き転調”がフォーカスされがちですが、楽曲の構成という観点では、終わった後に「もとの調に戻る」ことも重要だと考えられます。
そうしないと、1番のAメロと2番のAメロが異なる調になってしまいますからね。
したがって、今回は、転調した後にもとの調に戻る”帰り転調”という手法についてみていきたいなと思います。(※“帰り転調”という表現はこの記事独自のものです)
この記事では、ポップスにおける定番転調である『半音上』『全音上』『短3度』についてフォーカスしていきます。
転調後にもとに戻らない楽曲もある
ちなみに、転調後、もとに戻らずに、そのまま進行する楽曲として「ボクノート/スキマスイッチ」や「ハルカ / YOASOBI」という楽曲があります。もちろん、こういう手法も全然アリということですね。
短3度上(+3)から戻る
Lemon / 米津玄師
まずはサビ転調として定番の短3度(+3)についてみていきます。この楽曲はCメロ→ラストサビでKey:A♭(Key:Fm)→ Key:B(Key:G#m)に戻るということをやっています。
歌詞の「それだけが確か〜」の部分で、B音が使用されることで、”帰り転調”の影が見え初め、そこから2小節の伴奏を挟んで元のKeyに戻ります。ストリングスがBメジャースケールを駆け上がるのでそれが大きな転調フレーズとなっています。
Hello, Again~昔からある場所~ / My Little lover
この楽曲はサビがKey:G(#1)で転調しており、サビ終盤で元のKey:E(#4)になっています。
かなり秀逸な”帰り転調”だと思います。ポイントはF→Bsus4の2小節間で、Fが同主調(Key:Gm)の7番目のコード(♭Ⅶ)になっています。
そして、Bsus4が帰り先のKey:Eの5度の関係になっていて、ドミナントの機能をしているといえそうです。
Bは、Key:E(#4)の5番目のコードでもあるので、もとのKeyにスムーズに戻ることができるということですね。構造としては、ドミナント(Ⅴ7)が転調の”帰り道の架け橋”になっているという感じ。
抱きしめたい / Mr.Children
Mr.Childerenの「抱きしめたい」という楽曲。これも名曲で素晴らしいコードワークです。サビが終わってからの間奏で”帰り転調”が発生するのですが、これがまぁ秀逸です。
Fsus4→F(Ⅴsus4→Ⅴ)というコード進行から、そのまま全音上げてGsus4(♭Ⅵsus4)という進行になっています。Gsus4というのは、Gに戻るという推進力がありますから、それを利用して元の転調に繋げているという感じですね。
Fsus4→Fは、Key:Gで考えると♭Ⅶsus4→♭Ⅶです。その前もE♭(♭Ⅵ)が使用されており、ちょうどKey:Gの同主短調(Key:Gm)の借用和音となっています。わかる人にはわかると思いますが、ピカルディ終止(♭Ⅵ→♭Ⅶ→Ⅰ)のような流れになっているといえます。
My little loverの楽曲と同様に、同主調のコードと、sus4というコードをうまく利用している例になります。
ギラギラ / Ado
これは結構「スッ」と元に戻るパターンで、転調ポイントの2つのコードがポイントとなっています。楽曲のコードをそのまま採譜するとこんな感じになり、和声的にはよくわかりません。
半音上(+1)から戻る
Love so sweet / 嵐
次は、半音上(+1)について見ていきます。嵐の「Love so sweet」という楽曲は、サビでKey:B(#5)→Key:C(#0)の半音上(+1)転調が起こっており、間奏で”帰り転調”が発生しています。
コードはE/F#→F#sus4→F#となっており、これらのコードは転調先のKey:Bのドミナント(Ⅴ)の役割をしています。
Level 5-judgelight- / fripside
Level 5という楽曲もサビ途中でKey:B(#5)→Key:C(#0)の半音上(+1)転調が起こっており、2番のAメロへと”帰り転調”が発生しています。
Love so sweet と比較すると、Asus4→A(♭Ⅶsus4→♭Ⅶ)で異なるのですが、浮遊感のあるsus4コードを使用している点と、転調先のドミナントの役割(♭Ⅶは代理コード)をしている点では同じです。
これまでの傾向を考えると、やはり”帰り転調”の定番は「〇sus4」というコードなのかなーと思います。
あと、そもそも半音上(+1)の転調というのは、ラストサビで使用されることが多いため、”帰り転調”する必要がないことが多いと思います。
全音上(+2)から戻る
創世のアクエリオン / AKINO
「創生のアクエリオン」という楽曲。この楽曲は、サビでKey:D(#2)→Key:E(#4)で全音上(+2)へと転調しています。
間奏で”帰り転調”が発生しています。転調ポイントとしてはBsus4→B(Ⅴsus4→Ⅴ)となっており、次のコードが意外なことにKey:DのBm(Ⅵm)となっています。
俗にいう『偽終止』というものなのですが、これが転調ポイントに挿入されていて、なんか不思議な感覚がしてしまいます。作曲は菅野よう子さんで、この辺はさすがなのかなーという感じ。
oath sign / LiSA
LiSAの「oath sign」という楽曲です。この楽曲もかなり印象的です。
たったワンコードで一気にもとの調(Key:G)へと引き戻しています。Gmaj7がもとのKeyの主和音(Ⅰmaj7)となっている感じです。
名前のない怪物 / EGOIST
この楽曲のパターンは、「スッ」と戻るパターンで、Key:Dm→Key:Cmに帰り転調しています。これもDsus4→Dというコード進行を4小節間にわたって利用してじっくりという感じ。
そもそも、イントロとサビの曲調が全く異なるので、和声的な違和感は感じられないのかもしれませんね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
最近の楽曲は、間奏などを経由せずに「スッ」と戻しているというイメージがありました(気のせいかもしれませんが…)。
ここまでの傾向を見てみると、帰り転調には「〇sus4」が圧倒的に活躍しやすいのではないかと思います。機会があれば他の転調についてもやっていきたいと思います。
では!