キー(調)理論

キー(調)の「揺らぎ」って何だろう?〜丸の内サディスティックにみる調性コントロールの真髄〜【音楽理論の解説】

今回は、キー(調)の「揺らぎ」について少し考えてみようと思います。

少し分かりにくい内容なので有名曲「丸の内サディスティック/椎名林檎」を例にして解説していきたいと思います。


では、いきましょう!

キー(調)の揺らぎとは?

そもそも、キー(調)の「揺らぎ」とは何かということですよね。まず、音楽では、メジャー(長調)とマイナー(短調)の2つのキーが存在しており、サウンド面・感情的な観点からメジャーキーであれば『明るく、元気』な印象。マイナーキーであれば『暗く、悲しい』ような印象がしますよね。


しかし、実際には楽曲の印象・サウンド面は必ずしもこれらの性質に真っ二つに別れることは少ないはずです。いわゆる、メジャーとマイナーの中間みたいなところをフラフラしていることがよくあるんですよね。これは楽曲を聴いていてもなんとなくわかるのではないでしょうか。



特に、ジャズやフュージョンでは、これらの調(キー)がハッキりしないことがよくあり、両者の中間でフラフラしている状態を「浮遊感」「おしゃれ」といった言葉で表現していることが多いのです。ジャズに限ったことではなく最近のポップスもその傾向が増しているのは間違いないのです。

「平行調」に原因がある!?

これらを考えるうえで重要なのが「平行調(Relative Keys)」という概念ですね。これは「同じ調号にも関わらず、メジャーとマイナーという両端の性質にある調の関係」です。



古典クラシックでは、楽曲を製作する際、これらの調を明確に区別することが重要とされていました。つまり、Cメジャーと決めたならとことん明るい。Aマイナーならとことん暗い。という具合にメリハリをつけるのが規則だったんですよね。


しかし、これが時代とともに崩れだし、発展していった(リスト、ショパン、ドビュッシーなどがきっかけ…?)のが現代の音楽ということになります。したがって、現代ポップスでは、平行調の区別が曖昧な楽曲が非常に多くなっているのです。

丸の内サディスティックを例に解説!

では、実際に『丸の内サディスティック/椎名林檎』を例に説明していきましょう。この楽曲に椎名林檎の調性コントロールの真髄が見られており、キー(調)の揺らぎというのがなんとなくわかるかと思います。

Aメロのコード進行:暗い?明るい?

Aメロのコード進行です。この楽曲はキー:E♭メジャー(♭3つ)もしくは平行調であるキー:Cマイナー(♭3つ)で、このようなコード進行になっています。

明るいというよりは、暗い印象。ただ、どんよりとした暗さでもないどこか”陰り”のようなものが垣間見える気がします。これこそが“キー(調)の中間をフラフラしている状態”ということですね。



この原因は、G7とE♭7という2つのドミナントコードにあります。G7は、平行調マイナーの主和音であるCm7(Ⅰm7)のドミナントコード(Ⅴ7)ということで、そこへ解決するのが原則となっています。したがって、この部分で楽曲のキーは一気にキー:Cマイナーへと引っ張られることになります。


逆に、E♭7は、A♭▵7(Ⅳ▵7)というメジャーコードに進行するので、楽曲のキーはキー:E♭メジャー”より”に引っ張られることになります。


このコードによるキーの押し引きこそが、調の揺らぎを演出している原因なのです。これによって、明るいわけでも、暗いわけでもない複雑なサウンドを表現しているわけですね。

Bメロのコード進行:パァーっと開けた印象?

では、Bメロはどうでしょうか。コード進行はこのようになっています。

ここはAメロと比較すると、パァーっと開けたような明るい印象がするのではないでしょうか。実に不思議ですよね。


これはなぜかというと、A♭▵7→B♭7→E♭(サブドミナント→ドミナント→トニック)という、典型的なメジャーコード進行の終止形が使用されているためです。他に有名なのがツー・ファイブ・ワン進行というものです。こちらも、サブドミナント→ドミナント→トニックという流れになっていますよね。

コード進行終止形

  1. Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ(サブドミナント→ドミナント→トニック)
  2. Ⅱm→Ⅴ→Ⅰ(サブドミナント→ドミナント→トニック)


したがって、Bメロでのキーは一気にキー:E♭メジャーの方へと引っ張られるわけですね。Aメロとはうってかわり、Bメロでは希望のような明るさを感じさせる展開になっています。

サビのコード進行:騙されたような感じ!?

サビのコード進行はAメロと同じなのですが、ポイントはサビ前のコードになっています。

Bメロの最後は、G7コードが使用されており、次のコード展開としては、Cm7(Ⅰm7)に繋がるのが原則ですよね。

ところがどっこい。サビ始まりはA♭コードに進行しているではありませんかそのため、キーはキー:E♭メジャー”より”に引っ張られ、期待を裏切られたような印象的を受けます。

※ドミナントコード(Ⅴ7)には、主和音(Ⅰ、Ⅰm)に解決したいという効果があり、ドミナントコードが鳴った時点で、人間は「安定な和音に解決してほしい」というある種の錯覚を起こすんですね。(実際に解決していない段階からです!)

このコードの印象から先の展開を感じとってしまう現象を「調の重力=トーナル・グラビティ」と呼んだりしますので、参考にしてください。

サビはAメロと同じ進行なので、また、明るいとも暗いともいえない、フラフラしたような状態が再開されるのです。

こういった調性コントロールがかなり上手いなーと思います。聴き手に揺さぶりをかける小悪魔のような感じ。これが椎名林檎の楽曲の真骨頂です。

椎名林檎が好きな方はこういった魅力に見せられているのかもしれませんね。

キー(調)の揺らぎはヒット曲に必須!?

丸の内サディスティックを例にして解説してきましたが、キー(調)の「揺らぎ」というのが少しわかったのではないでしょうか。

冒頭でも言ったとおり、これは最近のポップスではかなり多く使用されるパターンで、丸の内サディスティックに限ったことではありません。

近年のヒット曲である「夜に駆ける/YOASOBI」「白日/King Gnu」「Pretender/Official髭男dism」などもこういった手法が随所に散りばめられています。これらの傾向は現代ポップスの楽曲に必要不可欠な要素なのではないでしょうか。

まとめ


いかがでしたでしょうか。


このようにキー(調)を自由自在にコントロールすることができると、また違った楽曲が作れるかもしれませんし、意識すると音楽をより深く味わえると思います。聴くときも楽しいですしね。

参考になれば幸いです。



では!


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だっとさん
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ピアノ、ギター、作曲をする音楽家。ポップス、ロック、アニソン、ボカロなどの楽曲分析、音楽理論、DTM、ギター機材関連の情報を発信! Youtubeでも動画配信しているので見てね!