音楽理論

ジブリ音楽にみる調性コントロールとコード進行の多様性~海の見える町、人生のメリーゴーランド、あの夏へ…~

ジブリ音楽の魅力

ジブリ音楽は海外でも人気が高くYoutube等で調べてみると、これらの魅力について語られている動画が多数見受けられます。

ジブリ音楽の特徴として、ドビュッシーやマイルス・デイビスのモードジャズに見られる四度体積和音、または、M7にテンションを追加した浮遊感のある和音が登場するのは有名な話ですが、今回はもう少しポピュラー音楽的なアプローチに着目していきたいと思います。

調性コントロールとコード進行の多様性

ジブリ音楽では、多様なコード構成、調性コントロールが見られます。調性の点について単純にいえば転調なのですが、そのようなガラっと変化するダイナミックなものではなく、特定の小節のみとか、特定フレーズのみ変化するような例が数多くあります。

分数コードの効果的な使用

◆海の見える街〜魔女の宅急便より〜
冒頭のメインフレーズ部分。ベースラインの下降と上行が対比で用いられており、コンセプトを感じるコード進行が印象的です。これを可能にしているのが分数コード(転回形)。

下降している部分では、Bm/D→C→G/Bとなっており、ダイアトニックコードの転回形使用して順次進行します。

上行している部分では、B/F#→Em/G→E7/G#となっており、Amにうまく着地させるために、セカンダリードミナントのE7/G#を挿入している点がポイントです。

このように、分数コードはベースラインを順次進行させるために用いられることが多く、ジブリ音楽にはよく用いられますし、作曲においても重要なのでぜひ覚えておきましょう。

同主調モーダルインターチェンジの活用

同主調というと、同じ主音をもつ調同士になります。使用する音と和音も異なるので、部分的に借用するだけでもサウンドに明らかな違いが出ます。

◆あの夏へ〜千と千尋の神隠しより〜
この楽曲はコードの響きが非常に美しく、その流れの中で同主調のコードが唐突に現れます。例えば、冒頭部分の小節のFm7がそれにあたるコード進行です。次の小節では、テンションにA♭付加されたG7(♭9)が使用されており、同主調の響きが引き継がれているのがわかります。

(詳細は動画にて補足して頂けると幸いです)


また、サビ部分もベースラインが下降していくコード進行の中でいきなり同主調コードであるCm/E♭→B♭/Dが登場していることがわかります。また、D♭7はG7の代理ドミナント(Substitution Dominant、裏コード)といった具合でしょう。

◆さんぽ〜となりのトトロより〜
となりのトトロの『さんぽ』の「さかみち~」の部分です。Bメロでサブドミナントマイナー(Ⅳm)をもってくるような使い方はポップスではよくされますよね。

◆風になる〜猫の恩返し〜
猫の恩返しの『風になる(作曲:つじあやの)』のBメロ(たったひとつのこころ~)でもこのような手法は見られます。
 

◆風の谷のナウシカ〜風の谷のナウシカより〜
風の谷のナウシカのテーマソングもKey:Dの中でかなり激しく同主調を行き来するといえます。

Aメロ(楽譜上段)はDm7から始まるので少し暗い印象がありますが、Bメロ(楽譜下段)はD/F#から始まるので明るくなった気がしますね。

平行調モーダルインターチェンジの活用

平行調は、調号が同じで使用するコード群も同じなのですが、楽曲の中心音、いわば、主音や主和音(C or Am)が変化するため、どうしてもサウンド的には、すこし違った印象を受けてしまいます。

◆人生のメリーゴーランド〜ハウルの動く城より〜
『人生のメリーゴーランド』のメインフレーズ。ここにはKey:B♭とKey:Gmのコード群が対比するように用いられており、印象の変化があるといえます。

前半部分はCm7→D7→Gm7で平行短調の主和音に解決するⅱ-Ⅲ7-ⅵのカデンツ。

後半部分はCm7→F7→B♭maj7で長調の主和音に解決するⅱ-ⅴ7-Ⅰのカデンツです。

サウンド感が若干、異なっていますね。後半のほうが視界が開けて次の展開に繋がるような気がします。

セカンダリードミナントのⅢ7が肝

これらの調性コントロールには、セカンダリードミナントがポイントとなります。例えば、平行調のコントロールを可能とするのは、もっぱらⅢ7のセカンダリードミナントといえます。これはⅥmのドミナント(Ⅲ7)にあたるコードなので、短調への変化を与えるコードになります。


『人生のメリーゴーランド』の場合、Key:B♭におけるD7(Ⅲ7)が起点となっており、これを経由することで、平行調を行き来していると考えられます。

モード手法について

モード手法にもすこし触れておきます。「風の谷のナウシカ テーマソング」では、Key:Cmにおける♮Aが登場しており、これが強力にドリアンモード(Dorian mode)を感じさせる響きとなっています。

コードをみてみると、Cm6(Ⅰm6)が登場しており、コード構成音に♮Aが含まれるため、これがドリアンの性質をもつコードになっていることがわかります。

まとめ


いかがでしたでしょうか。


ジブリ音楽では色々な仕掛けがあって面白いですね。これも和音の響きや性質を知り尽くしている作曲家だから為せる技なのでしょう。

それとは対照的にメロディが非常にシンプルなのも着目すべき点です。これについてはまたお話できたらと思います。


では!

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だっとさん
ピアノ、ギター、作曲をする音楽家。ポップス、ロック、アニソン、ボカロなどの楽曲分析、音楽理論、DTM、ギター機材関連の情報を発信! Youtubeでも動画配信しているので見てね!

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